東京 : 山川出版社, 2025.5
角度を変えて見る幕末維新
以前読んだ『幕末維新史への招待』(2023年4月刊)が面白かったため、今回新しく刊行された『国際関係編』を手に取ってみました。(同年に『全国諸藩編』も刊行されています。)世界史の視点から幕末を見られることを期待して選びました。
本書は、大きく分けて以下のような構成になっています。(3部13章+終章)
● 第1部・第2部: 10の国・地域(アメリカ、オランダ、ロシア、イギリス、フランス、プロイセン、清、朝鮮、蝦夷、琉球)の視点から、それぞれの思惑や日本との関係性を読み解く(1章〜10章)
● 第3部: 「海外から幕末日本をみた人びと」として(福沢諭吉、密航留学生、アーネスト・サトウ)を取り上げる(11章〜13章)
● 終章: 「19世紀グローバル化はどう進行し、日本になにをもたらしたのか?」
実際に読んでみた感想は、まるでモデリングされた3Dデータを、くるくると角度を変えて眺めているような読み心地でした。では、この角度からは?と読み進めるたびに、多角的な視点を与えてくれる本です。
教科書では、どうしても大きな歴史の流れでまとめられがちですが、実際には、国ごとに多様な事情や思惑があり、日本と関わっていました。そしてその動きに応じて、日本側も他国へ働きかけていました。ここでは例として、特に印象的だった3章 ロシアと、8章 朝鮮について少しご紹介します。
ロシアが日本に接近した理由
本書では、ロシアが日本に接近した目的は、領土拡張ではなく、当時領有していたアラスカへ、食料や物品を運送するためだったと説明しています。またペリーに対抗して、開国・条約締結にこぎつけたわけではなく、どちらかといえば、アメリカに便乗する形だったようです。早くから来航していたロシアが、なぜアメリカに先を越されたのだろうかと疑問に思っていましたが、腑に落ちました。
幕府は、ロシアに信牌を与えて長崎への来航を認めながら、来航したレザノフには通商を認めず追い返しました。これを受けたロシア側の襲撃について、本書は次のように説明しています。
一八〇六年にはサハリン島の、一八〇七年にはエトロフ島の日本人を襲撃した。これが近世後期のロシアの脅威論を生み出す原因になった。
(本書 47頁より一部抜粋)
最初から、領土拡張を狙っていたかのように日本側に映ってしまった、ということがうかがえ、興味深いです。
日本の対外進出論のなかの朝鮮
ロシアや欧米諸国の接近を受け、日本側では、アジアを固めて侵入を防ぐことが、すでに18世紀末からの対外進出論のなかで、一部の学者によって語られはじめていました。開国後には広く論じられるようになり、本書では、橋本左内、吉田松陰、山田方谷らの意見が紹介されています。いずれも朝鮮一国だけではなく、満州、台湾、蝦夷、琉球などを挙げ、複数の国・地域の併合を説いています。また、
幕末の学者が唱える朝鮮進出論は、とくにロシアの南下を警戒し、日本を中心として周辺地域に進出して列強諸国に対抗しようとする対外膨張論の一部であり、朝鮮進出のみをとりわけ目的とするものではなく、朝鮮はその一国にすぎない。
(本書 128頁より一部抜粋)
との見方を示しています。、幕末以降のロシアや列強の脅威に、朝鮮もまた巻き込まれていく様子を見ることができます。
各国の動きを追うために
今回は2カ国をご紹介しましたが、改めて読み返してみると、各国・地域の動きが複雑に絡み合っていることがわかります。そのため、ある程度幕末維新史の大枠を理解できている方が読むと、より一層読みごたえを実感できる内容だと感じました。
また、文章だけでは全体像が把握しづらい部分もあるため、巻末に掲載されている関連年表を参照しながら読み進めると、流れを整理しやすくなります。
日本の国内情勢ばかりに目が向いてしまいがちな幕末史において、新しい見方をもたらしてくれる一冊です。
